第9回 (2010.05.18)
娘のことを考えて、あるいは日常の煩わしさを少しでも解消するために、テレビを見なくなって、もう一年以上過ごしています。
余計な情報が入ってこなくなったせいか、洋服を買いに出ることも少なくなりました。
時々、昔の服をひっぱり出し、今の気分に合うように手直ししては着たりして。
たまに友人の要らなくなった服をもらい受け、それはそれで、楽しいなと思いながら。
こんな連載をされていただいているにも係わらず、
すっかりファッションにおいては隠遁生活のような日々を過ごしています。
そんな隠遁とした生活だからこそでしょうか、思いもかけない所でそのエッセンスに触れ、
心くすぐられることがあります。
「おちゃのじかんにきたとら」

ベルリン生まれの作者ジュディス・カーが描くこの絵本の中の装いの素敵なこと。
この絵本を手にして以来、つい絵本の中で描かれる服装に注目してしまう癖がつきました。
美術工芸学校に学び、テキスタイルデザインなどもされていたというジュディス・カー。
ある日、とらが、お茶の時間に「こんにちは」といってたずねてきて、
主人公のソフィーとお母さんがすすめるケーキやパンやお茶、果ては
家中の食べ物や飲み物をたいらげ、「それではおいとまします。」
といって帰っていってしまいます。
困ったソフィーとお母さんは帰宅したお父さんにその一部始終を話します。
そして、家族揃ってレストランへ行き、夕食をいただきます。
翌日、またとらがいつ来ても良いように、タイガーフードなるものを買って待つのですが、
とらはもう現れませんでした。 というお話。
ありふれた日常に、不意に訪れるありえない出来事。
カフカの「変身」ほどの唐突さ。
そんな唐突さですら、登場人物は素直に受け入れます。
現実とパラレルの世界とを軽やかに行き来する、絵本ならではの楽しさ。豊かさ。
そのストーリーだけでも十分なのですが、さらに魅力的なのが、
登場人物の装いです。
紫のワンピースに、幾何学的な柄のタイツを合わせたソフィー。
グリーンのワンピースを着たお母さんは、おうちではバレエシューズのような
靴を合わせていますが、レストランへは、上からオレンジのコートを羽織り、
茶色のミドル丈のブーツを履き、ピンクのバッグを持って出かけます。
一瞬登場する、雑貨屋の男の子までが愛らしい。
同じくジュディス・カーの「ねこのモグ」シリーズでの装いも、やはり素敵です。
タイツや靴とのコーディネート、色の合わせ。寝巻きの柄まで
テキスタイルデザインをされていた作者ならではだと思います。
牧歌的であったり、こどもらしいやさしい服が描かれている絵本は数あれど、
今のところ、彼女の作品より素敵な装いが描かれた絵本には出合っていません。
と言うより、服装を意識して絵本を見ることなど、
「おちゃのじかんにきたとら」を見るまでは無かったこと。
子どもと過ごすありふれた日常の中で見つけた、とても些細な楽しみです。

