labour+laugh しあわせな労働について/竹脇虎彦

第2回 ウォールドガーデン

1963年東京生まれ 写真家・ガーデナー
1999年イングランド南部に移転。
より良い食材を求めてカントリーサイドのファームやガーデンを訪ねるうちに、
土から食べ物をつくることに憧れを募らせた。2000年よりマナーハウスのキッチンガーデンに通いボランティアで働きながら野菜づくりを学んだ。2004年から2007年まではイングランド南部フォレストロウにあるシュタイナースクール(Michael Hall School)のガーデナーとして野菜とハーブづくりに従事。
2007年に帰国後は茨城県の八郷に畑を借りて野菜・ハーブ・米をつくり、ナショナル麻布スーパーマーケットなどで販売。2010年より岩手県岩泉町にある中洞牧場内の耕作地で野菜・ハーブ・ベリー類の栽培に取り組んでいる。
著書:「イギリス オーガニック農園への旅」(産業編集センター刊)
http://www.biscuit.co.jp/tora.html

 

 

第2回 ウォールドガーデン 2011/07/29

ボランティアの研修生として通う(といっても都合のよいときだけ週に2日程度ですが)
ことになった ガーデンのオーナーはイギリスではいちばん古いシュタイナースクールでした。

この学校は1940年代にロンドンからビレッジのマナーハウスに移ってきました。
このマナーハウスには17世紀からずっと野菜をつくり続けている
ウォールドガーデンがあります。
4メートルほどのレンガの壁が畑の周りを囲んでいて、
今でも野生動物や冬の冷たい風から畑を護ってくれています。

ここでいっしょに働いた僕の農業の先生はドロティアというドイツ人の女性でした。

殆ど機械を使うことなく畑で働き、日が暮れると畑で出来たもので簡単な食事をして、
ビオラを少し弾いたら寝てしまう、200年まえからずっとそんな暮らしを
しているのではないかと思えてしまうような人でした。
彼女といっしょに働いていると必要なこと以外は殆どしゃべりません。

機械を使わない農作業というのは、土を掘り返したり、堆肥を切り返したりといった
単調な作業が多いのですが、黙って没頭してこういった作業をしていると、
感覚がとても敏感になってくることがありました。

それは目の前のことだけでなく、自分自身の内側についてもそうで、
長い間思い出すことがなかった古い記憶が突然現れたりします。

自分がいつもよりも透明になれたようで気持ちのいいことでした。

初夏の1日が長い頃のことだったと思います。
その日は当時5歳くらいだった僕の息子もガーデンに手伝いに来ていました。

日が暮れかけた頃、りんご畑のなかで放し飼いなっていた鶏たちが 小屋に入ってゆくのを
少しはなれたところから3人で眺めていました。
鶏たちは決して争うことなく順番に小さな入り口から小屋に入ってゆきます。
最後の1羽が入るとドロティアが 「彼らは何がいちばん大切なのかをちゃんと知っているのね」とつぶやいて、 「さぁ、わたしたちも足元が見えなくなるまえに帰りましょう」と云って
畑の隅っこにある家に帰ってゆきました。
僕と息子も足元に気をつけながら家に戻りました。

このことを今でもよく思い出します。
息子が15歳くらいになったときに聞いてみたら、
彼もやっぱりあの日のことは憶えているようでした。
きっと何かを感じていたのでしょう。

back to top